『秒速5センチメートル』──忘れられない人は、心のどこかに残り続ける

たまに、ふと思い出す人がいる。
今はどこで何をしているのかも分からない。
もう何年も会っていない。
それでも、何かの拍子に記憶の中からその人が現れる。
『秒速5センチメートル』は、そんな「忘れられない人」と「過ぎていく時間」を描いた作品だ。
新海誠監督による2007年公開のアニメーション映画。
物語は、遠野貴樹と篠原明里という二人の少年少女を中心に進んでいく。
幼い頃に出会い、互いに特別な存在になった二人。
しかし、成長するにつれて二人の距離は少しずつ離れていく。
この作品で印象的なのは、大きな出来事そのものではない。
むしろ、何気ない時間や風景だ。
雪の降る駅。
電車の窓から見える景色。
桜が舞う道。
夕暮れの街。
そうした風景の中に、二人が過ごした時間が静かに残っている。
そして、その時間は決して戻ってこない。
「もし、あのとき違う選択をしていたら」
そんなことを考えてしまう瞬間が、この映画には何度もある。
けれど、人生はいつまでも立ち止まってはいられない。
人はそれぞれの場所へ進んでいく。
新しい人と出会い、新しい生活を始める。
それでも、過去の記憶が完全に消えるわけではない。
そこが、この作品の切ないところだと思う。
忘れることと、前に進むことは、同じではないのかもしれない。
大切だった人を心のどこかに残したまま、それでも自分の人生を歩いていく。
『秒速5センチメートル』を大人になってから観ると、そんな物語に見えてくる。
そして、この作品を語るうえで外せないのが、山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」。
映像と音楽が重なった瞬間、これまで積み重ねてきた時間が一気に押し寄せてくる。
過去を振り返ることは、必ずしも後悔することではない。
ただ、
「あの頃は良かったな」
「あの人は今どうしているんだろう」
そう思うだけの日もある。
そんな気持ちを、ここまで静かに描いた映画はなかなかない。
桜の花びらが秒速5センチメートルで落ちていくように、時間もゆっくりと、けれど確実に過ぎていく。
気がつけば、あの頃の自分とはずいぶん遠い場所にいる。
それでも、記憶の中には残っている。
忘れられない人も。
忘れたくない時間も。
『秒速5センチメートル』は、そんな記憶をそっと思い出させてくれる作品だ。